院長談

2014年8月21日 木曜日

犬の精巣腫瘍②


こんにちは。
院長の山中です。



今日は犬の精巣腫瘍の種類について

書きたいと思います。



精巣にできる腫瘍には

間質細胞腫、精上皮腫(セミノーマ)、セルトリ細胞腫

の3つがあります。




それぞれの特徴は以下のようになっています。

間質細胞腫

・ 良性腫瘍
・ 精巣腫瘍の中で一番多く約40%を占める
・ 約半数が両方の精巣に発生
・ 元は男性ホルモンをつくる細胞だが
  それに関連した症状が出ることはすくない



精上皮腫

・ 精子の元となる精上皮由来の腫瘍
 転移率は5~10%
  主にそ径・腸骨・腰下リンパ節などに転移する
・ 転移した場合は放射線や抗がん剤治療を行う
・ 多くが片側の精巣に発生する(両側にできるのは約10%)
・ 潜在精巣(陰睾)では発生率が高まる




セルトリ細胞腫 

・ 精細胞の支持や栄養供給などを行うセルトリ細胞由来の腫瘍
 転移率は10%前後
  傍大動脈や腸間膜リンパ節等の局所リンパ節に転移する
・ 転移した場合は放射線や抗がん剤治療を行う
・ 多くが片側の精巣に発生する(両側にできるものは約10%)
・ 潜在精巣(陰睾)では発生率が高まる
・   約30%の症例でエストロゲン中毒※が見られる



エストロゲン中毒
・・・腫瘍細胞が分泌するエストロゲン(女性ホルモン)の作用で
   反対側の精巣委縮、乳房の腫大、前立腺過形成、
   毛包・皮脂腺の委縮による脱毛や皮膚委縮、骨髄抑制
   などの症状がみられる




精巣は白膜という丈夫な膜で覆われているため

お腹の中で腫瘍化した場合も周囲に腫瘍細胞が

しみ込んでいくことは少なく、腫瘍を取りきることができます。



また、血流に乗って腫瘍細胞が転移することも少ないといわれています。




しかし、精上皮腫とセルトリ細胞腫はリンパ管を伝って転移することがあり

報告により異なりますが、その確率は5~15%程度です。




転移してしまった場合は抗がん剤や放射線治療で治療していくことになります。





転移のほかに注意が必要な場合は

エストロジェン中毒により骨髄抑制が起きているときです。

骨髄は血液の細胞成分を作っているため

ここが抑制されてしまうと

貧血・免疫不全・凝固不全(血が固まらず出血が止まらなくなります)

を起こし、手術のリスクや死亡率が上がってしまいます。




しかも、骨髄が重度に抑制されると

腫瘍摘出後も骨髄機能が回復しない場合もあります。



写真は潜在精巣のセルトリ細胞腫です。




このワンちゃんは毛が抜けるということでご来院されましたが

精巣が片側しか降りていなく、その精巣は委縮していたため

エストロジェン中毒による脱毛が強く疑われました。





幸い骨髄抑制は軽度だったため手術で

腫瘍を摘出することができました。






精巣腫瘍は早期に対処すれば治せることが多いため

精巣が腫れてきた時や

潜在精巣の子で毛が抜けたり乳房が張ってきたときは

早目に受診してください。





http://www.yamanaka-vet.com/

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2014年8月20日 水曜日

犬の精巣腫瘍①



こんにちは。
院長の山中です。




前回、精巣がお腹の中または皮膚の下にある

潜在精巣(陰睾)の場合は

去勢手術をした方がいいと書きましたが、

その理由は精巣腫瘍になりやすくなるためです。





精巣内には精細胞といわれる

成長すると精子となる細胞があります。



この精細胞は熱に弱いため

成犬では温度の低い陰のう内にあります。





潜在精巣の犬では精巣が温度の高い体内にあるため

精細胞が正常に育たず精巣が委縮していきます。



委縮しているだけならば問題はありませんが

中年齢以降になると中の細胞が腫瘍化することがあります。




その腫瘍の発生率は正常犬に比べ13倍になるとの報告もあります。





また、陰のうや皮膚の下で腫瘍化した場合は

精巣が大きくなるため気づきやすいですが

お腹の中にある場合は腫瘍化していることに気づきにくく

治療が遅れてしまうこともあります。





というわけで潜在精巣、特にお腹の中に精巣がある場合は

去勢手術をお勧めします。



次回は精巣腫瘍の種類について書きたいと思います。



http://www.yamanaka-vet.com/syoukai.html

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2014年8月15日 金曜日

犬の不妊手術:雌

こんにちわ。院長の山中です。

猫の不妊手術に続き

犬についても書きたいと思います。



犬の避妊手術のメリットとしては猫と同様に

乳腺腫瘍の予防効果があります。

〇 避妊手術による乳腺腫瘍の予防効果
  初回発情前  99.5%
  1回発情後    92.0%
  2回発情後    74.0%
  2.5歳以降    効果なし


といった報告もあります。



犬は猫よりも乳腺腫瘍の発生が多く見られますが

猫がほとんど悪性なのに対し

犬はその50%が悪性で、残り50%は良性と言われています。

また悪性のものでも早期に治療すればその

50%は助かるとも言われています。

つまり乳腺腫瘍になっても早期に対処すれば

75%は助かる可能性があるということです。



この他のメリットとして卵巣と子宮の腫瘍の発生や

子宮蓄膿症(子宮の細菌感染症であり子宮内に膿がたまる病気)

の発生がなくなるといったことがあります。

また、発情時の発情出血や偽妊娠もなくなります。



避妊手術のデメリットとしては

まず肥満になりやすくなることが挙げられます。

また、まれに尿失禁(少しずつ尿が漏れてしまいます。)

を起こすことがあります。

これは治まることもありますし、一生続いてしまう場合もあります。



上記のようなメリット・デメリットを考慮して

避妊手術を行うか決めていくことになります。

個人的には生殖器系の腫瘍や感染症は命に関わることがあるため

避妊手術をすることをお勧めしますが

絶対にしなければいけないという訳ではないので

迷われている方は、かかりつけの獣医師に

ご相談されるのがいいかと思います。

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2014年8月13日 水曜日

猫の飼い方⑧ 不妊手術:雄

こんにちは。
院長の山中です。

本日は前回に続いて雄の去勢手術についてです。



雄猫での去勢手術のメリットとしては

〇 尿臭の軽減
〇 スプレー行動の減少
〇 発情期の問題行動の消失
〇 攻撃性の低下


などが挙げられます。



まず尿臭やスプレー行動ですが

これは室内飼育の場合、人間にとって問題になることがあります。

猫の尿は犬の尿より濃く、臭いも強くなっています。

この臭いの原因の一つとして尿中に含まれる

フェリニンという物質があります。

この物質は猫のフェロモンといわれており

縄張りの主張や異性を引き付ける作用があると考えられています。

このフェリニンは去勢していない雄猫の尿中に

特に多く含まれており、これが強い臭いの原因となっています。

尿の臭いぐらいと思われるかもしれませんが

この臭いはかなり強烈で一度かけられたらまず取れません。

スプレー行動は、この臭い尿を家中にかけていくため困ったことになります。



次に発情期の問題行動ですが

独特の声で鳴いたり、スプレー行動をしたりするほかに

外の雌猫を求めて脱走を企てます。

外に出ると交通事故に遭うこともありますし、

他の猫とケンカしてケガをしたり病気をもらってしまうこともあります。

特にケンカや交配で感染する猫エイズ・猫白血病ウイルスは命に関わります。



上記のメリットの他に、猫では発生率が低く問題になることは少ないですが

精巣腫瘍や前立腺肥大などの病気を防げるといったこともあります。



では去勢手術のデメリットですが

やはり太りやすくなります



肥満は尿石症の発症リスクの一つになり、

特に雄猫は尿道が狭いため

結石が詰まって尿道閉塞を起こしてしまいます。

なので去勢後はフードの量を調節してあげましょう。



また、個人的にデメリットと思うのは

小顔効果があることです。

去勢をしていない雄は成長するとともに

頬に肉がついていき顔が大きく丸くなっていきます。

個人的にこの顔の形が好きですが

去勢をすると大きくならなくなってしまいます。








にらみが効いてますね。

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2014年8月12日 火曜日

猫の飼い方⑦ 不妊手術:雌

こんにちは。
院長の山中です。

今日は猫の不妊手術について話したいと思います。

不妊手術(メス:避妊手術、オス:去勢手術)は

絶対にしなければいけないものではありませんが勧めるには理由があります。



メス猫の場合その最大の理由として

乳腺腫瘍の予防ができるということです。

猫の乳腺腫瘍は犬より発生率は低いですが

そのほとんどが悪性腫瘍であり

発見時には転移していることが多く

手術をしても腫瘍の自潰(腫瘍が破れる事です)は防げますが

延命はあまり期待できません。



しかし、早期に避妊手術を行うと

乳腺腫瘍の発生率を下げることができます。

ただし、手術の時期はいつでもいいというわけではありません。

乳腺腫瘍の発生率は発情を経るたびに上がっていくため

初回発情前に手術するのが理想的です。



〇 避妊手術による乳腺腫瘍の予防効果

  6ヶ月齢まで     91%
  7~12ヶ月齢        86%
  13~24ヶ月齢      11%
  24ヶ月齢以降      効果なし




という報告もあります。



その他のメリットとして

卵巣・子宮の腫瘍、子宮蓄膿症の予防や

発情がこなくなるといったメリットが得られます。



逆にデメリットとしては太りやすくなることが挙げられます。



乳腺腫瘍も必ずなる訳ではありませんが

なったときのことを考えるとしておいてあげたいところです。

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